「君の名は。」レビュー(ネタバレあり)

前回の記事でネタに使ってしまったので、真面目に映画のレビューでも書いてみようかと。

まずは、NHKの「クローズアップ現代」が「君の名は。」大ヒットの理由を探る特集を行っていたので、ご参考までに。

・想定外!?「君の名は。」メガヒットの謎
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3898/1.html

本番組によると、メガヒットの理由(仮説)は以下の4点。
(1)圧倒的なリアルさ。
(2)ジブリで経験を積んだスタッフが作画監督として入った。
(3)観客を置いていくほどのスピード感
(4)「結び」

1、2は単なる十分条件なので置いておくとして、3番目の「スピード感」というのは良い着眼点だと思う。
これは「シン・ゴジラ」についてのレビューでも指摘されていた事だが、圧倒的な情報量と展開のハイスピード化によって観客を飽きさせずに2時間集中させることが出来るという“発見”である。
考えてみれば現代の高度情報化社会において我々鑑賞者の情報処理能力が上がっていると理解するのは自然なことで(※1)、従来の映画のテンポでは間が空きすぎてしまうという“発見”は(上記番組内でも触れられていた通り)今後の作品のスタンダードとなっていくだろう。

この辺りのスピード化は現代のサッカー等にもあてはまり、ただボール扱いが上手いだけの選手は淘汰されて、ボール扱いに長けていると共にチームの戦術を理解しハードワーク出来る人材が求められてきているのにも似ているだろうか。
もちろん、ただスピード感を出しただけで内容がスカスカでは意味がなく(サッカーでも戦術を理解しない無駄走りが効果ないのと同じだ)、普通に作れば3,4時間はかかる内容を2時間に凝縮するからこそ濃密な作品を制作する事ができる。(※2)

また、余談ではあるが、凝縮化によって消化しきれなかった情報を確認するために映画館に複数回通ったり、DVDやサウンドトラックCD、書籍などの関連商品を買わう、といったビジネスチャンスも生まれている(従来はいわゆるマニア層しか対象とならなかったが、より広範な層にアプローチする事に成功している)。
本作はこの展開も見事だった。(※3)


そして、番組では4つ目のキーワードを(ネタバレを考慮してか?)「結び」という、映画内でも出てくる(がしかし全くもって曖昧な)言葉にしているが、この映画の真価についてはラストシーンに言及しなければいけない。ラストシーンがこの作品の核である事は、新海監督の言葉からも明らかである。(※4)

(※以下、ラストシーンのネタバレ)

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作中では色々な出来事があったものの、結局ラストシーンで起こった事とは「神社の階段ですれちがった二人の男女がお互いの名前を聞く」だけである。それは初めて出会った人同士が普通にする行動で、私たちの誰もがどこかで経験している事である。
そこに至るまでこの二人の間に何があったのかは(二人は直感的に気づいているとはいえ)、「神の視点」で見ている観客にしか分からない。
そして、この二人の男女がこの先どうなるかについては一切触れられていない。

つまり、このラストシーン自体は凡庸であり、それは即ち一般化できる!ということである。
上記番組内で作品を見た観客が「自分の昔の事を思い出した」という感想を持ったのはまさにその通りで、あの男女の一人は「自分」に、そしてもう一人は「あの時出会った人」、「今一緒にいる人」もしくは「これから出会うかもしれない誰か」に置き換える事が出来る。
だから、この作品を見た感想は「あの時の人に、もしこう言っていたら今はどうなっていただろう」、「今の人ともこれまで色々あったなあ」あるいは「もしかしたら、こんな運命的な出会いがこれからあるのかなあ」というような、個人体験にまで落とし込むことが出来る。

主人公の二人は、もしかしたら隣で映画を観ていたカップルの事かもしれないし、駅ですれ違った老夫婦の事かもしれないし、あるいは貴方と私の事かもしれない(?笑)。
このラストシーンの一般性こそが「君の名は。」という作品の素晴らしさであり、この作品が明確な“開かれた作品”(※5)として、多くの人に受け入れられている理由ではないかと思う。


※1:但し、学術的な証拠があるかどうかは分からなかったので、これはあくまでも筆者の感想でしかない。

※2:本作でも明らかな脚本の瑕疵が何カ所か見受けられるが、ここではいちいち指摘しない。

※3:個人的に、サントラと小説版、ビジュアルガイドは買って良かったと思った。もっとも、最近の展開は少しやりすぎ感が出てきている気が…

※4:「恋を描きたいと最初に思っていた訳ではなくて、出会うべき運命にあるけれどまだ出会っていない2人の話を作りたいというのがシンプルな動機だったんだと思います。」(「君の名は。公式ビジュアルガイド」より)

※5:「つまり、芸術作品は基本的に曖昧なメッセージ、単一の意味表現(significante)の中に強制する多様な意味内容(significato)であるという考え方である。(略)そして以下の論考では(現代の詩学における)その曖昧性こそが明らかに作品の明示的目標の一つ、言い換えれば、他の諸価値にも増して達成すべき価値となっていることを述べる。」U・エーコ「開かれた作品(第二版)」序文より

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